クローン病や潰瘍性大腸炎の基礎的な医療情報です。 2008-03-08 update

クローン病の外科治療について

 クローン病では、狭窄、閉塞(イレウス)、瘻孔(ロウコウ)、膿瘍(ノウヨウ)、難治などが主な手術適応となります。この他の条件として穿孔(センコウ)、大出血、発育障害、腸ガン、肛門病変などに対して手術が行われます。病変部位の切除が原則ですが、小腸の狭窄には、狭窄形成術が行われます。手術を行い緩解した患者さんにプラセボ(疑似薬)を投与し治療をしなかった場合、2年以内の再発率は40-63%と高率です。緩解後も再発予防のために、外来通院した方が良いでしょう。

1.手術率、累積手術率
クローン病の手術率は潰瘍性大腸炎より高い。これは病変部位が広いこと、また腸壁全層に及んでいるためです。厚生省特定疾患研究班の内科9施設の集計によると累積手術率は、発症5年で30.3%、10年で70.8%でした。病変部位を小腸型、小腸大腸型、大腸型に分けて検討すると各病気の部位による手術率の差はなかった。外科の報告や欧米の報告によると手術率はもっと高く、病変部位別でみると、大腸型の手術率は、小腸型、小腸大腸型より低いと言われています。一方、九州大学第2内科青柳先生らのクローン病74例の報告では、もっと低い値ではあるが、いずれにせよ累積手術率は高いようです。*2

重症のクローン病では術後も再燃率が高く、7割以上が4-9ヶ月の早期に残存小腸病変の再燃を来たします。クローン病の手術率は発症後5年で33.3%、10年で70.8%と高く、さらに手術後の再手術率も5年で28%と高率であることから、再燃・再発予防が重要である。診断後10年の累積生存率は 96.9%となっております。*12

2.手術適応 
クローン病の手術適応となる病態をそれらの頻度を示します。狭窄48例(56%)、閉塞(イレウス)10例(7%)瘻孔(ロウコウ)23例のうち、内瘻(ナイロウ)19例(12%)、外瘻(ガイロウ)4例(3%)、膿瘍(ノウヨウ)11例(7%)、穿孔(センコウ)6例(4%)、難治6例(4%)、出血3例(2%)、栄養障害3例(2%)、ガンまたは疑い3例(2%)、手術中に発見2例(1%)です。少し古いですが平成六年度の資料によると86名の手術を行った患者さんは、手術前のIOIBDスコアー平均3.1で(0-7)でした。*3

1)狭窄、閉塞(イレウス)
狭窄、閉塞(イレウス)は合わせて全手術の63%を占める手術適応で、一番多い病態です。これは内径の狭い小腸に多く、小腸型手術の55%、小腸大腸型の35%、大腸型の12%を占めていました。小腸の内腔が5mm位(造影検査で判断)になると腹痛が出現することが多い。狭窄が激しくなると、消化吸収障害を起こします。線維性狭窄は栄養療法で症状が軽減しても、狭窄自体の改善は望めません。手術してみると腸壁は1cm位に厚くなっていることが多く小腸の狭窄や閉塞は、患者さんの非常な苦しみを伴います。超音波検査やCTで腸管の肥厚を確認された時点で手術をした方が良いでしょう。大腸の狭窄は比較的に無症状で、あまり手術適応でなく内視鏡を見ながらバルーンを使った拡張術で改善する場合もあります。*1.*2.
狭窄部が長い場合は、バルーン拡張は、あまり有効では無いと思います。しかし手術前の1つの手法として有効な方法です。欠点として例え一時的に狭窄が解除出来たとしても再狭窄する率が高いことも知っておくべきです。
 回腸−結腸吻合術術後の内視鏡
回腸−結腸吻合術術後の内視鏡
吻合部潰瘍(クローン病) 回腸小アフタ(クローン病)
吻合部潰瘍  回腸小アフタ
肛門狭窄部(クローン病) 残存結腸(クローン病)
肛門狭窄部 残存結腸
 国内・海外でも報告は少ないですが、癌性狭窄に対し形状記憶合金を材質とした「ステント」使ってバルーン拡張術に反応しない患者さんでどうしてもストーマ(人工肛門)がイヤだという患者さんに試みられているケースがあります。クローン病では良性疾患であり生命予後が長いことが症例の少ない理由の一つです。形状記憶ステントを留置した場合に、便内容物が、ステントと腸管の間に溜まり腐敗するのではないかと思います。特に国内では腸管用ステントが導入されておらず、食道用ステントが代用されています。
食道用ステントはまっすぐであることが、穿孔をおこしたり、腸管が移動したり閉塞を起こす原因となります。腸管は湾曲部が多いので、フレキシビリティが高いステントが必要である。またステントの長さも短いサイズが必要です。*6-11
またこの手技に関する保険償還でないことと材料費約30万円と高額であることも二次的要因です
最近、生分解プラスチックを使ったステントが治験が試みられているようです。腸管穿孔の可能性も減少し、かつフレキシビリティもあり、分解されることにより、金属ステントの欠点が改善されています。次の課題は、ペーハーによる拡張力の維持および、術者によるステントの使いやすさ、保険償還だと思います。個人的には、非常に興味を持って注目しています。
2)瘻孔、膿瘍(ノウヨウ)
瘻孔と膿瘍は、クローン病の19%に起こり、2番目に多い病態でした。内瘻(ナイロウ)と外瘻(ガイロウ)を比較すると内瘻のほうが多くみられます。内瘻とは腸管と腸管に繋がる瘻孔を言います。回腸S状結腸瘻孔が一番多くみられ、まれに腸管と膀胱(ボウコウ)や子宮との間に起こる場合があります。瘻孔は比較的長い縦走潰瘍#の中心部に発生し、深い裂溝や潰瘍が突き破り瘻孔が出来ます。瘻孔の肛門側よりに狭窄があることが多く、腸管の口側内圧が上がり瘻孔が出来やすいと思われます。瘻孔(ロウコウ)は難治で、栄養療法で改善しても、通常の食事を開始すると短期間で再発するようです。瘻孔を合併した症例は貧血、低栄養状態で、腹痛や炎症性のしこりもあるため手術の適応となります。また外瘻(ガイロウ)では、腸内容が腹部に漏れだしてきますが、その量が多いときは腹膜炎を起こし手術の適応になります。また痔瘻(ジロウ)の痛みが強い場合も、手術適応になります。後ほど説明させていただきます。

3)その他の適応
 腸穿孔は手術の1-3%で穿孔部位の約80%は回腸#である。急性虫垂炎(いわゆる盲腸)や消化性潰瘍の穿孔として診断され手術になることが多いのです。大出血も1-3%に起こり、出血部位は、回腸が多く、緩解期に起こりやすく、男性に多いことが特徴です。潰瘍性大腸炎と同じく難治で手術になるものも多いようです。また難治性の肛門病変に対しても手術が行われます。小児では発育障害も重要な適応です。腸ガンの合併は少ないですが、これにも手術が行われます。

3.手術術式
 クローン病に対する手術に対する原則は、病変部位の切除です。病変の端から約5cm離してつなぎ合わせることが多いようです。瘻孔の手術をする場合、瘻孔の相手の腸に病変があるときは、その腸病変がないときは単純閉鎖でよいようです。切除の範囲が長いときには短腸症候群にならないように気をつける必要があります。膿瘍(ノウヨウ)が溜まっている場所には、十分な廃液(ドレナージ)が必要です。小腸狭窄に対する手術は、狭窄の前後に活動性の病変があれば病変全体を切除し、場所の限られた病変でも開放性潰瘍が活動性の病変であれば切除が望ましいようです。

狭窄形成術術
 狭窄が線維性、瘢痕(ハンコン)で、開放性潰瘍がなければ狭窄形成術の良い適応となります。

狭窄形成術術(クローン病)狭窄形成術術(クローン病)

 この手術は腸の切除の必要もなく、複数の狭窄にも可能です。合併症も少なく、入院期間も短く、短腸症候群になる心配がないという優れた手術方法です。手術後の再発率も長期的にみて、腸切除をした人と変わらないとされています。Oxfordのグループ*4の報告によると狭窄形成術平均50ヶ月(最長182ヶ月)追跡し再発がみられたのは3.7%と良好な成績を報告しています。しかし約1/3の例では、活動性病変が観察されなかった他の部位に高度狭窄が出現しており、この点は今後解決すべき問題です。

シートン法(セトン法)
 クローン病の肛門病変はほとんどが痔瘻(ジロウ)で慢性化し難治性です。痔瘻の一次口は、肛門潰瘍や裂肛から発生し、会陰皮膚に複数の二次口がみられます。瘻管(ロウカン)を確認し内面を十分攪拌(カクハン)してから瘻孔と肛門管、瘻孔と皮膚とを軟らかいドレーンをループ状に通して結んで留置します。

ドレーンは、瘻孔(ロウコウ)が複雑なほど、多く挿入されます。ドレナージ(廃液)を確実にし、経過観察とともに瘻管の数を減らし瘻孔の単純化を期待します。単純化すると1本ずつ抜いて様子を見ます。安定していくと数ヶ月もしくは複雑例では1年ほどでドレーンは全て抜け治癒すると言われています。その間、肛門部の違和感や膿の排出に対する不快感は我慢せざるを得ないでしょう。その際に、女性用整理用ナプキンを使用すると便利です。

しかし、この治癒と言うのも完全治癒ではなく、膿が溜まることに痛みや発熱もない状態で若干の廃液があるようです。今のところ完全治癒はないと聞いていますが、このシートン法とレミケード(抗TNF-α抗体)を併用すると閉じる可能性があります。レミケードには腸管に空いた穴を閉鎖する効果があると言われています。

CDに於けるシートン法(クローン病)
生活習慣 Cosnesら*5の報告によると喫煙量依存症は、手術のリスクを高めるようです。男性に比べ女性にハッキリとその傾向がみられます。観察期間中に喫煙を開始した例では手術率が増加し、逆に中止した例では手術率が低下したことを報告されています。喫煙習慣はクローン病の増悪因子とする報告が多く生活上注意すべき点であり、一方、潰瘍性大腸炎では、喫煙により症状が緩和するという報告もあり、その情報を誤って鵜呑みにしないように気をつけて戴きたいものです。また経口避妊薬も発症の危険因子と推定されています。*2

引用文献
*1.福島恒夫、鬼頭文夫、小尾芳朗、他 炎症性腸疾患 (1)外科治療 胃と腸 第32巻第3号 389-395 1997増刊号 
*2.青柳邦彦、平川克哉、飯田三雄、他 胃と腸 第32巻第3号 421-430 1997増刊号 
*3福島恒夫、杉田昭 Crohn病術後再発因子の検討 厚生省特定疾患難治性炎症性腸障害調査研究班平成6年度資料報告書 99-102 1995*4.Stebbing JF,Jewell DP,Kettlewell MG, et al. Longterm results of recurrence and reoperation afte strictureplasty for obstructive Crohn's disease. Br J Surg 82: 1471-1474,1995
*5.Cosnes J. Carbonnel F, Beaugerie L, et al. Effects of cigarette smoking on the long-term couse of Crohn's disease. Gastroenterology 110:423-431,1996
図「炎症性腸疾患 潰瘍性大腸炎とCrohn病のすべて」編集 武藤徹一郎、八尾恒良、名川弘一、櫻井俊弘
*6消化管狭窄の解除 石橋潤一 Mebio Vol.15 No.1pp.140-147,
*7.Acute Corlorectal Obstruction: Stent Placement for Palliative Treatment-Results of a Multicenter Study
*8.Miguel Angel De Gregorio, Antonio Mainar,Eloy Tejero,Ricardo Tobio, etc.Radiology October 1998 pp.117-120
*9.Treatment of Colonic Obstruction with Expandable Metal Stents: Radiologic Feeatures Cheri L.Canon Todd H. Baron AJR:168,January1997 pp199-205
*10.狭窄を合併したCrohn病に対するMetalic Stent留置の有用性 大田恭弘、新村拓、松井敏幸 福岡大学筑紫病院 消化器 Metallic Stentの現状と進歩 第14・15回日本Metallic Stent & Graft研究会抄録
*11.クローン病の腸管狭窄に対するステント治療の長期成績 松橋 信行、中島 淳、高添 正和 DDW-Japan 1999 抄録

*12.厚生労働省 難治性疾患克服研究事業 消化器系疾患調査研究班(難治性炎症性腸管障害)平成19年8月9日
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