クローン病や潰瘍性大腸炎の基礎的な医療情報です。


2.栄養療法について
 クローン病患者が栄養療法を行う理由は、患者さんが食事摂取できないか、クローン病による吸収不良のために生じた体重減少、低栄養の状態を改善することです。
栄養療法は栄養障害の改善、腸管の安静に加え、食物を食べることによる抗原物質や有害物質の進入が無くなることにより、腸管を自分の免疫系統が攻撃することから遠ざけることで腸管安静が保たれるものと考えられています。
 食物抗原としては、特に脂肪があげられます。N-6系#の油が悪者の代表格となっています。他に堅い食物繊維や海草など数々あり、それらを免疫異常により異物と見なしてしまい、腸管粘膜下層まで攻撃してしまうのです。*7
 栄養療法としては、完全中心静脈栄養(TPN)と成分栄養法(ED)に大別されます。
 
1)TPN(完全中心静脈栄養)
 クローン病におけるTPNの適応は高度な腸管狭窄、広範囲小腸病変、瘻孔(ロウコウ)形成、頻回の下痢、ED(成分栄養療法)が出来ない場合もしくは、ED(成分栄養療法)で病状が改善されない場合、栄養障害が激しい場合、大量下血の場合などが考えられます。
長期間のTPN(完全中心静脈栄養)は、腸管粘膜の萎縮(イシュク)、カテーテル感染による熱発、胆汁の減少による胆泥や胆砂{胆嚢(タンノウ)に砂が貯まる}という問題があります。薬剤費も成分栄養剤と比較すると高いそうです。症状が改善したら、ED(成分栄養療法)に切り替えるべきです。

2)ED(成分栄養法)
ED(成分栄養法)は、窒素源が合成アミノ酸のみで構成される経腸栄養剤と定義され、成分栄養剤と認定されているのは、国内では、エレンタール、エレンタールP(小児用)、ヘパンEDの3製品だけです。腸管内で消化吸収の作用を全く必要としないため、消化管の安静がはかれるために、TPN(完全中心静脈栄養)との有意差はないと言われています。ほとんどのクローン病患者さんには成分栄養剤であるエレンタールが使用されています。
成分栄養剤(エレンタール) 

成分栄養剤で全ての栄養を摂るとすると、生体に必要な栄養素を基本的には全て含むとされていますが、亜鉛やセレンなどの微量元素の含有量が少ないので、長期にわたる場合には適宜補充の必要があります。また、定期的に経静脈的な脂肪乳剤の投与による必須脂肪酸の補給も必要になってきます。クローン病の第一選択薬とされるエレンタールでは1ヶ月程度であれば脂肪乳剤を投与せずに血中脂質濃度を維持できると言われています。保険適応外のクローン病に使用できる経腸栄養剤から脂肪をとるのも一つの手段と思われます。

成分栄養剤摂取には、短期間及び初期導入では、口から飲む経口摂取法が選択されます。しかし栄養剤の味・臭いが非常に悪く飲みにくいため、患者さんが習慣として栄養剤をとり続けることが困難なことにより、栄養療法を離脱し病勢が悪化するケースが多く見られます。味の調製をするために、メーカーよりフレーバーという粉ジュースの素が各種用意されておりますので、患者さんは、医療スタッフに聞いてご自身が合うか試してみましょう。
そこで、長期に腸管の安静を図る目的で内径5Fr(1mm)の細経のチューブを用いて、鼻から挿入し、栄養剤を投与する「経鼻経管栄養摂取法」が推奨されております。患者さん/医療現場からは鼻注(ビチュウ)と呼ばれています。この「経管栄養摂取法」をマスターするのには、短期的に入院し、医療スタッフに習うことになります。

もし、いきなりチューブを渡されて、「明日から、やってくださいね。」と言われると患者さんの答えとして「出来ません。」ということになると思います。そう言った患者さんの気持ちを配慮した医師が増えることを願います。

低濃度、低用量から開始し、2,000kcal/日以上の維持量へ増やしていきます。成人では3,000kcal/日の投与も可能です。成分栄養剤に準じる消化態栄養剤といって窒素源がアミノ酸より分子量の大きいペプチドタイプで若干の消化が必要な栄養剤があります。

 消化態栄養剤は、消化管の機能を使うという意味で生理的と言われています。少し状態の安定したクローン病患者さん、あるいは成分栄養剤が飲めない患者さん、もしくは、鼻注の出来ない患者さんに対して経口摂取用として使用されているようです。エンテルード、アミノレバン、ツインラインなどが主治医の判断で使用される場合もあります。消化態栄養剤よりさらに消化吸収力が必要なタンパク質が分解されていない半消化態栄養剤や合成低残渣食は緩解期のクローン病患者さんおよび、栄養療法を開始したばかりの患者さんに段階的に成分栄養剤への導入を意図して用いられる場合があるようです。
消化態栄養剤(エンテルード)

  保険適応の半消化態栄養剤(エンシュアリキッド)は脂肪含有量が多すぎるので、筆者としては勧められません。
病状が落ち着いてくれば、エレンタールと低脂肪低残渣食スライド式にし食事を増量していきますが、その場合もエレンタールで1,200kcal/日以上のカロリーを採ったほうが良いようです。*1
 
栄養療法により一旦、緩解に導入しても、栄養療法を中止し、普通食の開始を再開すると再燃を起こすことが多く、1年以内で半数が再燃をするようです。緩解維持あるいは再燃時の外来治療として在宅経腸栄養法が行われます。社会生活および家庭生活へ復帰し、再入院を防止するためにも在宅での成分栄養法を実行すべきです。*4
 在宅成分栄養経管栄養法と呼ばれ、それに必要なチューブおよび点滴ライン、栄養剤のバッグは、保険でまかなわれるので、患者の経済的負担はほとんどありません。注入ポンプ等の機材は病院から無料で貸し出しをしてくれます。病院によっては、医療材料/機器販売代理店との間にレンタル契約(病院−患者さん)との扱いを行っていない場合もありますので、医事課等に聞いてみましょう。場合によっては、在宅IVH用にポンプを貸し出しをしている業者さんに問い合わせしてみるのも一つの方法です。
 理想体重あたり1日30kcal/kg重以上の成分栄養剤による在宅経腸栄養は最も確実かつ、極めて高い緩解維持効果があると言われています。*5

スライド式在宅経腸栄養法

 実際には、スライド方式に基づく在宅成分栄養経管栄養法(HEN)が標準的に行われています。スライド方式とは、クローン病の病状に応じて、注入する成分栄養剤の量の比率を変化させる方法です。病状が悪化すれば再び食事量を減らし、成分栄養剤の量を増加することにより緩解するようです。クローン病が再燃した場合には、食事を中止し、全必要エネルギーを成分栄養剤でとるように変更します。
 このスライド方式の利点は外来通院しながら軽度のクローン病の再燃を緩解に再導入し入院を避けることが出来、入院回数を減らすことが可能です。入院期間の短縮も利点の一つとして挙げられます。*4
 下痢止めとしては、ロペミンが有名ですが、腸管の動きを押さえる働きがあり、腸の動きの激しい下痢には有効ですが、エレンタールによる浸透圧下痢に対しては、水溶性食物繊維を使うかもしくは腸粘膜保護効果のある「タンニンサンアルブミン」が有効とされています。
ロペミン(下痢止め)←ロペミン

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