クローン病や潰瘍性大腸炎の基礎的な医療情報です。


潰瘍性大腸炎の手術術式について

手術術式としては全結腸全摘、直腸粘膜切除、回腸肛門吻合(IAA)が一般的です。潰瘍性大腸炎の手術は、病変を残した手術は行われません。なぜなら術後もステロイドを必要とし、病変部位よりの出血は改善が期待できないからです。原因病変が取り除かれ、根治します。全身状態、貧血、発熱、腹痛、栄養状態などが急速に改善され、ステロイドとも縁が切れます。しかし発病から十年以上経過し癌の発生、転移もしくは、不可逆性(元に戻らない)の腸管外合併症が発生してしまうと、大腸を取り除いても腸管以外の病気の影響を受けることになってしまいます。
手術は2期分割手術が多くなっていますが、手術器械の発展により、1回で終了が可能なケースも多くなってきましたが、昨今の医療保険改正の一環として在院日数を減らし医療費抑制を目的としDPC制度を病院に導入させました。DPCは(Diagnostic Procedure Combination) と呼ばれ。疾患別定額払いという仕組みは、疾患/処置(手術料)、麻酔料毎に診療報酬額が決められているので、設定額を越えてしまうと赤字になります。入院日数が延びると赤字になるため、例え傷が治っていなくても退院させてしまうという患者不在の医療制度です。従って病院は自衛策として検査入院と手術直前の入院を分けたりするというおかしな現象が生じています。従って保険制度のために、手術を1回にするか、本当は1回で可能だけど、2回に分けるのか見えてこないところがあります。2007年4月現在で360の医療機関がDPCを導入している。現状に合っていないところも総医療費抑制の大名目に向けて動き出した発展途上の仕組みである。

1)緊急手術
 緊急手術は、救命が目的であり、全身状態も不良であるので、最小限の操作にとどめ原則として腸吻合(フンゴウは行わないようです。吻合とは、消化管の内腔(ナイクウ)の連続性を保つために行う手術で消化管再建術とも呼ばれます。 
かいようせい大腸炎の手術切断部位
一期手術:大腸全摘(1)、(3)あるいは歯状線で切除。
二期手術の場合
 第一期手術:結腸全摘 (1)、(2)で切除を行い、回腸人工肛門造設、直腸粘液瘻を造設します。
 第二期手術:残存直腸切除 (3)あるいは歯状線で切除。 *8

a.大腸空置法
 回腸人工肛門造設術:回腸人工肛門のみを造設を行い、大腸を便が通らないようにするのが目的です。全身状態が悪く出来るだけ手術を早く終わらせないといけない場合に行われます。

b.大腸空置、減圧法
 回腸人工肛門造設・横行結腸瘻造設術:回腸人工肛門を造設を行い、大腸が便を通らないようにし、かつ、大腸の減圧を図るのが目的です。この術式も全身状態が悪く、出来るだけ早く手術を終わらせる必要がある場合に行われます。

2)待機手術
 待機手術は、潰瘍性大腸炎の根治治療が目的であり出来る限り広範囲の大腸粘膜を切除します。患者さんの状態や希望により以下の3種類の手術から選択されます。

1.結腸全摘、回腸人工肛門(イレオストミー)造設術
大腸粘膜が抗原ですから大腸を全部取ってしまえば、潰瘍性大腸炎は、治ります。一回の手術で完了し、全身状態の回復も良好ですが、永久的人工肛門になりQOL#は良好とは言えません。これが最大の欠点であります。下部直腸ガンを合併した場合や肛門機能が低下している場合はやむを得ずこの術式を選択せざるを得ません。回腸末端に排泄を出す人工肛門(イレオストミー)を作成します。人工肛門を作っても普通の日常生活が送れますし、女性の場合妊娠や出産も可能です。しかし患者さんのなかにストーマ(人工肛門)の否定的なイメージがつきまとい手術が手後れになるケースがあります。*6

この改良術式として結腸全摘/コック式イレオストミーいうのがあります。2.3は、自然肛門を残すための手術です。


1.a.結腸全摘・コック式イレオストミー造設術
 回腸末端部に貯便嚢(袋)(リザーバー)と便の流出を防ぐ弁の造設を行い、排便機能を制御するストーマです。

 この手術は、大腸を全摘出術を行いストーマ(回腸瘻)の開口部のすぐ手前に便やガスをためる貯便嚢(袋)を造り患者さんの腸を用いて乳頭状の逆流防止弁を造ります。排便の際は患者さんがカテーテルを貯便嚢(袋)に挿入して便を出します。逆流防止弁の働きでストーマから便は漏れないため通常のストーマに付けられるバッグは不要となり画期的です。しかしこの術式の合併症で問題になるのは逆流防止弁がずれて便失禁になることですが簡単な手術で修復可能だそうです。しかしこの術式は、合併症も多く、手術難度が高いため、専門外科医以外では行うべきではないようです。*8

2.全結腸全摘、回腸嚢直腸吻合(IRA) 
 病変の一部である直腸と回腸をつなぐ手術なら可能ということで1970年代に日本でよく行われました。人工肛門を造らなくて良い点が最大の利点です。欠点として直腸病変が残るため、術後の直腸病変に対する治療の必要が一生にわたり治療が必要になり、直腸ガンの可能性や直腸からの出血などにより再手術をせざるを得ないケースがあります。3-6ヶ月に一度は外来で直腸検査を行うことが絶対条件になります。この術式は潰瘍性大腸炎の手術としては不完全です。
 この術式を行う患者さんとしては、直腸病変が軽度な場合や高齢者に行われます。3.4の術式が出来ない患者さん(肛門括約筋の機能が不良な人。肺機能や心臓機能に問題があり麻酔などの面で手術体位がとれない場合、クローン病と鑑別診断がつかない人)は、直腸を最小限に残しつつこの術式を選択することもあります。

3.全結腸全摘、回腸(嚢)肛門管吻合(IACA) 
 直腸粘膜を残す方法である。下の方法が完璧ではあるが、粘膜を残す分の再発の可能性があるものの、手術時間も早く回復も早い。
潰瘍性大腸炎の手術術式(IACA)

4.全結腸全摘、直腸粘膜切除、回腸肛門吻合(IAA)
 1980年に開発された術式で、結腸全部を摘出した後、直腸粘膜を歯状線から剥離(ハクリ)し、回腸末端を用いて貯溜槽を作り、これを肛門管と縫いあわせするものです。これにより、大腸粘膜は全て切除され、かつ肛門機能も残されるという利点があります。手術は、一度には出来ず、つい最近までは、3期分割手術といって3回の手術によりやっと完成するものでしたが、現在、手術器械の進歩等もあり、粘膜剥離が簡単になったことにより、2回の分割手術で出来るようになりました。
潰瘍性大腸炎の手術術式(IAA)

 手術時間も、短縮し患者さんの肉体的負担も軽減されました。二期分割手術が行えるようになって、12年前には1,500mL以上あった出血量は、現在400mL以内に減り、10時間かかっていた手術は3.5時間前後と短縮されました。(開腹手術の場合)

手術を安全に行うには2回または3回に分けて手術を行いますが、手術と手術の間の3ヶ月間は社会復帰が可能です。この手術方法は潰瘍性大腸炎に対する標準術式として認められ、一般的な外科治療法となっています。*1. 

 この手術の特徴は、回腸末端を用いて、貯溜槽(リザーバー、パウチ)を作り、水分吸収のための袋を作成する。パウチの形として、J型、S型、W型、H型などありますが、Jパウチが一般的です。

 もう一つの特徴は、肛門管の歯状線より口側の直腸粘膜を切除することで、病変粘膜を完全に切除することにより、潰瘍性大腸炎は治癒します。肛門機能も温存され、排便機能維持も可能となります。しかし、術後の便失禁や、下痢の回数が多くなることは仕方ないことですが、便失禁は、パウチ部分が生体適合してくると、ほとんど消失するようです。

 術式の選択は、3)が術後生活の容易さ、潰瘍性大腸炎の治癒を考えると一般的です。
筆者は、クローン病であるのにも関わらず、この2)の術式にJパウチを組み合わせた典型的な潰瘍性大腸炎の手術をされてしまいました。大阪の大学病院に入院した際に先生方に、クローン病と確定診断しているのにもかかわらず、アンビリーバブルな手術(IRA)を行うということを、手術記録を取り寄せるまで信じてもらえませんでした。

全結腸全摘、直腸粘膜切除、回腸肛門吻合(IAA)の3期分割手術の分割計画の内容
第一期手術の内容について
全結腸切除、直腸粘液瘻造設、回腸人工肛門造設術
 まず病変の大部分である全結腸を取り除きます。口から肛門まで1本の消化管であったのがとぎれますから、回腸で人工肛門を造ります。人工肛門を造ることでより早く食事を開始することが可能になり、栄養状態の改善を図ることができます。そして残った直腸は便が通らず(空置といいます。)病変が安静に保てます。患者さん自身で直腸内を洗浄および治療をすることができます。

第二期手術の内容について
直腸粘膜切除、J型回腸嚢肛門吻合(フンゴウ)術、空腸的回腸人工肛門造設術 )

第一期手術後、ステロイドの減量を行い、手術の影響が少なくなる3ヶ月後に第二期手術を行います。直腸粘膜をはがし、排便のコントロールしている肛門括約筋を残します。また回腸と肛門をつなぐ時に、回腸でJの字の袋を造り肛門と縫いあわせます。回腸で便をためる仕事をしてもらうことになります。

これを安全に行えるように、回腸肛門吻合(フンゴウ)部(回腸と肛門のつなぎ目)より口側に人工肛門を造り、手術部が安静になるようにします。これを空置的回腸人工肛門造設といいます。

第三期手術の内容について
人工肛門閉鎖術
 肛門機能括約筋が回復し、第二期手術の影響が少なくなった時期(少なくとも3ヶ月間必要です。)に人工肛門閉鎖を行い、肛門から排便が出来るようにします。

二期分割手術について
 二期分割手術は第一期と第二期手術を一度に行ってしまう方法です。しかし、粘膜を剥がす器具の進歩の結果やその他の医療器具の進歩により可能となりました。

なぜ三回に手術を分けるのか?
 クローン病との鑑別が困難な方やインデターミィネィト コライティス(indeterminate colitis)と言って潰瘍性大腸炎とクローン病とも診断のつかない大腸炎の方がいます。クローン病に回腸肛門吻合(フンゴウ)術は適さない手術とされています。また潰瘍性大腸炎で外来治療を受けられている方のほとんどが大量のステロイド投与を受けていることが、細菌に感染しやすい状態や傷を治しにくくすることによる危険性を考えなければいけません。それとともに、貧血や低栄養状態もある場合が多く手術を3回に分けた方が良い場合があります。

一回で手術を終わる方法はないのか?
 直腸粘膜を約2cm残して肛門管と言うところでJ型回腸嚢と吻合(フンゴウ) #するJ型回腸嚢(ノウ)肛門管吻合術と言うのがあります。この方法ですと二期分割手術の対象の患者さんであれば1回で可能です。欧米では良く行われているそうです。しかし少ないながら直腸粘膜が残るために将来残った粘膜に潰瘍性大腸炎が再燃し再びステロイド治療を行わなければならなくなったり、ガンが発生したりして再手術の可能性はあります。

腹腔鏡下手術
開腹をする従来の方法に変わり少しずつではあるが、内視鏡を使用した、腹腔鏡(フククウキョウ)下の手術方法(ラパロ)が行われつつある。
この方法は、下図のように腹部にトロッカー(ポート)と呼ばれる筒を体内に挿入し、そこを経由して、カメラおよび鉗子(処置具)等の出し入れを行い、術者は、TVモニターに映し出される映像を見ながら手術を行います。トロッカーのサイズは、5mmのものと、12mmのものを潰瘍性大腸炎では用いています。
臓器は、最終的にトロッカーを通じて摘出されます。施設により剥離処置等までを腹腔鏡でトロッカーの孔から行い、臓器を摘出する段階で、臍から下に小さな切開をして、臓器摘出を行う場合もあります。摘出の際に中味の汚物が腹腔内に漏れないようにコンドームなどを使用する場合もあります。全てトロッカーの孔だけで行う腹腔鏡下手術ではなく、内視鏡や器具を挿入する孔のほかに、7センチほどの切開口をつくるハンドアシスト手術が多く行われるようになった。開腹手術の利点である目と手の自由さを内視鏡手術に加え、安全性を高める方法で切開口より臓器摘出のほかに、手を入れて素早く血管を探り当てるときなどにも使われます。
ラパロ トロッカー位置
この手術法のメリットは、術後の回復が早いことにより、退院も早いこと。美容上の観点からも傷が少ないことが挙げられる。
デメリットとしては、手術時間が、開腹に比べ、わざわざTVモニターを通しての手術であり、時間がかなり長く掛かること。操作感覚が、開腹に比べ難しいため熟練を要すること。

例え、腹腔鏡で行っていても、難しい場合は、開腹手術になる場合もあることは、患者としても知っておく必要があります。

緊急時の場合は、手術時間が掛かることが、致命的になること、また大量下血であれば、手術部位が見えないことにより適応にはなりません。
症例は、慶応大学 第一外科 長谷川先生、渡辺先生、大阪労災病院外科 根津先生で症例数が多い。
慶応大学の場合、全大腸結腸切除+回腸嚢肛門管吻合をおこなっており、全例にストーマを造設している。
潰瘍性大腸炎の場合術前にステロイドを服用している場合が多いので、人工肛門を作らない一期のみの手術は行わないとのことです。ストーマは2-3ケ月後に閉鎖するそうです。*8
クローン病における腹腔鏡手術は、複数回の手術の可能性があるため、潰瘍性大腸炎よりも良い適応になります。方法は、同じです。

ステロイド投与量と術後合併症発生比率

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