クローン病や潰瘍性大腸炎の基礎的な医療情報です。2008-03-08 update


潰瘍性大腸炎の外科治療について

なぜ手術が必要なのか?
 免疫システムの異常により大腸粘膜が炎症を起こしていますので、大腸を取り除いてしまえば根治すると言えます。この病気は本来良性の病気であり、なんでもかんでも手術をして切ればいいというものではありません。しかし、良性であっても手後れになると生命の危険を伴い場合によっては、例え手術により潰瘍性大腸炎が治っても腸管外合併症が治らず障害を残したりします。 *1.

手術適応例とは
 潰瘍性大腸炎の外科治療は重症(大出血、中毒性巨大結腸、穿孔)、難治性(ステロイドに対する副作用、効果不良、大量投与例)大腸癌の合併、小児の発育障害(骨端線が閉じるまでに行います。)、腸管外合併症[大腿骨頭壊死(ダイタイコツコツトウエシ)、壊疽性膿皮症(エソセイノウヒショウ)、関節炎]などに対して行われています。

 緊急手術では、救命を優先し、結腸全摘、回腸人工肛門造設が行われます。
待機手術は、大腸粘膜の全体を取り除き、肛門機能を温存する大腸全摘、回腸嚢(ノウ)肛門吻合術が広く行われています。

累積手術率はどうなっているのか
 厚生省特定疾患研究班に属する9施設の1973年〜1990年の778例中114例(14.6%)が手術を受けているそうです。この数値は欧米と比べ低いのだそうです。発病の年数でみると5年で約10%、10年で約15%、15年で20%だそうです。患者さんの発症年齢には関係なく、全大腸炎型、急性電撃型、重症、劇症とだんだん手術率が高くなるようです。

 病変部位でみると、直腸炎型、左側大腸炎型では、手術率は低いが、全大腸型では、発病5年で約20%、10年で、約30%15年で40%と高率になっています。
臨床経過でみると、再燃緩解型では、13.7%、慢性持続型では21.5%急性電撃型では72.7%でした。発病後5年を過ぎると難治のために手術となり大腸癌やディスプレジア(ガンを合併した潰瘍性大腸炎の大腸粘膜にみられる上皮のある種の変化。ガン病変と似た病変です。) などのために手術となります。
白血球除去療法が、1999年末に認可され、2000年以降採用施設が増えてくることも影響し、累積手術率は低くなってきているようです。

手術適応
 潰瘍性大腸炎の手術適応は大きく分けると重症、難治、大腸癌、ディスプレジア、腸管外合併症の4つになります。

1)重症
 穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸およびこれらに関係のない重症発作があります。
穿孔は大量のステロイド投与中に起こることが多いようです。しかし穿孔の場合症状が出にくいことがあります。急速な脈拍の増加や腸雑音が著しく減ることがあれば、穿孔を疑います。聴診器をあてているのにも意味があるのだなと初めて実感させられます。遊離ガス像の有るか無いかをよく調べて穿孔もしくは疑いがあれば手術の適応となります。

大量出血は比較的まれな合併症で、緊急手術例のうち約10%だそうです。1日あたり1,000ml前後の出血が起こると治療しても出血が止まりにくく、輸血しても出血が2-3日続けば、手術が考慮されます。出血は比較的大きな露出血管から起こることもあれば、また粘膜表面から広範囲に起こることもあります。

手術方法は、結腸全摘、回腸人工肛門造設、S状結腸粘膜液瘻が標準的です。まれに残存直腸から出血してくることもあり、その際には直腸も切除せざるを得なくなります。しかし最近の手術の進歩により永久人工肛門(ストーマ)になる率は激減しました。
中毒性巨大結腸とは、結腸が異常に拡張した状態を言うのですが、重症発作の中で比較的多く、相当辛いそうです。


 重症発作には、原則的にステロイドパルス療法(強力静注療法:ステロイド500-1,000mg/日の投与)を行われます。

(潰瘍性大腸炎の内科治療を参照。)


 ステロイドパルス療法は5-7日間行い、改善すればステロイドを徐々に減らしていきます。この間に改善がみられない場合は手術適応となります。上・下腸間膜動脈からステロイドを20-50mgずつ投与する場合もあります。外科の先生に言わせると5日間のステロイドパルス療法の治療後に手術するか判断するのが難しいそうです。内科的治療に期待しステロイドを長期投与してしまう傾向があります。

ステロイドを多く投与しすぎると、手術後の縫合不全や、感染を起こしやすくなるので、手術前には、ステロイドの投与量を減らさなければならないというジレンマがあります。

重症の腸管外合併症で、歩行もできない関節炎や壊疽性膿皮症(エソセイノウヒショウ)などを合併しているときには手術により改善や消失が期待できるので早めに手術に踏み切る方が良いでしょう。

2)難治例
難治例の手術適応の決定は、内科治療に抵抗すると言う定義はありますが、具体的な線引きは難しいようです。1)頻回の重症再燃、2)慢性持続、3)難治性腸管外合併症などで患者のQOL(キュウオーエル:生活の質)が損なわれている場合が対象となります。欧米ではステロイドの量や反応によって難治例を規定しています。

 ステロイドに対する副作用のために投与出来ない場合、効果が不十分な場合、効果があるが、累積投与許容量を超えた場合が難治例とされています。

 累積ステロイド総量が10,000mgを超えると副作用を生じる危険性が高くなると言われています。累積ステロイド服用量が10,000mgを超える131症例中48例(36.6%) に出現しています。20,000mgで37例中24例(64.9%)に発生し、3,000mgを超えるとほぼ全例に副作用を認められます。

 一定期間に服用したステロイド投与量で検討すると、200mg/月以上服用すると副作用が多くなり、外科治療の適応になると結論づけています。そのほか小児の発育障害も重要な手術の適応であり、ステロイド投与量は、3,000mgを超えないほうが良いとも言われています。

3)大腸ガン、ディスプレジア(dysplasia)
 潰瘍性大腸炎の大腸ガンのリスクは病変範囲によって異なり、全大腸炎型で約6%、左側大腸炎型では、約3%、直腸炎型では、健常人と変わらないと言われています。喫煙者(25本以上/日)かつ緑黄色野菜をまれにしかとらない人では約2.8%、日本人平均では、約0.9%と言われています。

 欧米の発表では、潰瘍性大腸炎のガンの発生頻度は3-5%に発生しています。通常のガンの発生頻度の5-10倍と言われています。日本では長崎医大第2内科 鶴田英夫先生の1988年の資料や滋賀医科大 馬場先生の1988年以降の集計(1996年論文)からの傾向では、ガン発生年齢は平均47歳で、通常の大腸ガンより平均よりも10歳以上若い。 *3.

 病気にかかっている年数も重要で、発病10年を超えると発ガンの可能性は高くなり、欧米では、広範囲の大腸炎の発ガン率は、発病10年以内で2%であるが、それ以後10年で10-20%に増加すると言われています。

 我が国における潰瘍性大腸炎の大腸ガンの報告は、200例弱です。(1997年論文)
ディスプレジア#では前ガン状態であり、軽度では、3-6ヶ月ごとの内視鏡検査を行うが、隆起性病変の場合では手術を検討してもよい。高度のディスプレジアでは、手術適応になります。*2.
最近の研究班の報告では累積癌化率は10年で0〜5%、20年で8〜23%、30年で30〜40%と推定されています。近年、症例対照研究でペンタサ(5-ASA製剤)の継続投与が大腸癌のリスクを91%減少させるとともに、経過中の定期的な受診や下部内視鏡検査も大腸癌抑制の要因と報告されています。*9


4)腸管外合併症
 潰瘍性大腸炎には以下4つの腸管外合併症があり、大腸を取り除くことにより治癒が改善されるものや進行が止まるものがあります。

a.壊疽性膿皮症(エソセイノウヒショウ)
 皮膚が脱落して膿がたまるもの。大腸を摘出すると90%が治癒します。よく現れる部位は下肢特に下腿、体幹、お尻に掘れた潰瘍を形成する皮膚の化膿症で出血しやすい。*5
 ストーマ造設後のその周囲皮膚に発生することもあります。放置しておくと難治性で深い潰瘍となり皮膚移植が必要になることがあります。

b.ぶどう膜炎
眼の病気であり失明することもあります。重症では大腸全摘術の適応となります。

c.発育障害
 小児の適応ですがステロイド治療の副作用により発育障害が起こる場合があります。クローン病は、小腸に病変があることにより低栄養が原因になり発育障害になるという点が違っています。

d.大腿骨頭壊死(ダイタイコツコツトウエシ)
股関節(脚のつけね)のほか大腿骨の頭の部分やひざ関節の痛みとして発症し次第に痛みが増し、歩行が明らかにおかしな形になったり股関節の動きが制限されたり日常生活が著しく制限されます。脚のつけ根にある股関節の中の大腿骨頭(大腿骨の一番上端の部分)の骨組織が壊死に陥り、関節面が陥没したり変形したりする病気です。なんらかの理由で大腿骨頭の血流が低下し、骨組織が死んで脆くなります。壊死の範囲が大きいと、体重に耐えきれずに潰れてしまいます。細菌感染は伴いませんので、いわゆる「腐った」状態ではありません。ステロイドの大量全身投与を受けた方に比較的多く発生しますが、ステロイドの投与利用がそれほど多くなくても稀に発生するようです。*10
特発性大腿骨頭壊死症という特定疾患として認定されております。難病情報センターのサイトに情報が掲載されておりますので、是非ご覧ください。

現在有効な治療手立てがないため早期発見と現状維持が精一杯の治療です。手術は大腸を摘出する時期が遅れると大腿骨の骨頭を切除し人工骨頭を入れなければならなくなります。現在、人工骨頭の多くの原料がチタンや強化プラスティックですが大腿骨に使えるのはチタンのようです。

人工骨頭(ジンコウコットウウ)は入れっぱなしにするので、長期間の摩擦に耐えるものである必要があります。しかし製品として何十年もの実績やフォロ−アップデーターが出ていません。若い患者さんにとって何十年か後に、人工骨頭の入れ替えの手術が必要になると思われます。大腿骨骨頭壊死の早期発見のため、ステロイドの大量投与や長期間投与している方は、是非ともX線検査やCTスキャンや骨密度の検査などを受ける必要があると思われます。

潰瘍性大腸炎の手術術式について
ステロイド投与量と術後合併症発生比率

Mimibukuro Contents Since 1999-09-11 degudegu