ステロイド投与量と術後合併症発生比率
(元)兵庫医科大学 第二外科 庄司先生講演の資料によると1ヶ月あたりのステロイド投与量が700mgを境に変わっているようです。約70%の人に合併症が見られます。(92人の統計)
術前のステロイド投与量では一日50mg以上投与している場合に合併症が多く見られています。 *1.
*個人的にも大規模統計データとして兵庫医大の報告は素晴らしく学術的価値あるものと考えております。
術後合併症について
1982年から1998年1月までの兵庫医大第二外科で行った潰瘍性大腸炎の205例の症例をもとに引用させていただきます。
A.手術後早期に現れる合併症
1.骨盤内感染症
骨盤内感染症は回腸肛門吻合
(フンゴウ)術の最も危険な合併症であり、これをいかに防ぐかが手術目標だったそうです。手術を行った骨盤内には回腸や肛門吻合
(フンゴウ)部、回腸嚢(ノウ)があり膿がたまりやすく、腰の痛みや肛門部の痛み、発熱が起こります。11人(5.5%)に発生し、永久人工肛門になった7例も全員この合併症を起こしていました。
2.腸閉塞#
腸閉塞により緊急手術になった人は3人(1.4%)、入院が伸びた人は29人(14.1%)です。
3.死亡
手術自体による死亡はありませんが、ステロイドによる合併症や大腸穿孔により敗血症になって手術をした人、突然なくなった患者さんが5人(2.4%)あります。
4.下痢または極度の脱水
肛門から1回に1,500ml以上の廃液が起こり、発熱を伴う脱水症状になります。脱水がこわいため1回1,500ml以上の水分を取ってしまっている場合もあり、入院中電解質の点滴を受けていれば水分補給はある程度心配ないと思います。のどが渇くのである程度仕方ないですが、水分量は主治医に相談してください。
B.手術後晩期の合併症
人工肛門閉鎖後に起こる合併症のことで、205人中169人が人工肛門を閉鎖し潰瘍性大腸炎としての手術は終わっています。したがって統計データーの分母が変わります。
1.回腸嚢(ノウ)炎
回腸嚢炎に起こる原因不明の炎症で、頻便、下痢(時に失禁、下血)、
腹痛、発熱の症状が起こります。9人(5.3%)に見られました。抗菌剤
(フラジール、ルリッド)、抗生物質、ステロイド注腸、絶食(TPN)などの治療で改善されます。骨盤内感染から続発的に起こったものは治りにくく永久人工肛門にせざるを得なくなります。
2.痔瘻(ジ゙ロウ)
ステロイドの影響で、感染に弱くなっているために起こる合併症で時間がたっておこった痔瘻は10人(5.9%)で、そのうち永久人工肛門に至ったのは1人でした。
3.尿管結石
脱水症状の傾向にあるため、尿の排出を押さえようとして尿が濃くなり、尿管結石ができやすくなります。手術になる前からの結石を持っている人を除くと5人(3.0%)でした。
4.胆石症
胆汁酸の消化吸収が変わることにより胆石が胆嚢
(タンノウ)の中にできやすくなったりします。胆石症は11人(6.5%)あり、胆石による腹痛が続くため5人が手術となりました。
5.貧血
鉄欠乏性貧血が21人(12.4%)がありました。鉄剤の注射や鉄剤の服用や鉄分の多い食事で改善されました。
6.ステロイド離脱症候群
ステロイドを減量するうちに体がだるく、頭が痛いなどの症状がおき、ステロイドを離脱することが難しかった患者さん2人(1.2%)のみに見られましたが、1年半で離脱できたそうです。*1.
ガンの早期発見のために
潰瘍性大腸炎において、一般に、1.経過年数が10年以上、2.病変範囲が全結腸炎型、3.ディスプレジア
#(dysplasia)の検出が大腸ガンの危険因子であることに異論はないようです。
全大腸炎型の長期経過例に対しては癌合併していないか大腸ガンの早期発見のために1年あるいは2年に一度の間隔で全大腸検査を行い平坦粘膜から10cmごとに、隆起性病変をみつけられれば、これを追加し生検
*を行うという方法が推奨されています。 *4
累積癌化率は10年で0〜5%、20年で8〜23%、30年で30〜40%と推定されています。近年、症例対照研究でペンタサ(5-ASA製剤)の継続投与が大腸癌のリスクを91%減少させるとともに、経過中の定期的な受診や下部内視鏡検査も大腸癌抑制の要因と報告されています。
*9
(
*内視鏡中に行う粘膜組織切除検査)
潰瘍性大腸炎とたばこ
1982年Harriesがたばこを吸わない人と潰瘍性大腸炎の関連の報告されましたがその後はその関連性について否定的、肯定的な研究やエピソードが色々報告されました。
タバコが免疫を抑制するため潰瘍性大腸炎を緩解に導き出すとの報告があり、アメリカでは
ニコチンパッチを使用する患者さんがいるそうです。ニコチンパッチは、国内でもニコチン依存症の禁煙治療に保険が適用されるようになりました。一方、クローン病では過剰な喫煙と関連があるのでは言われています。炎症性腸疾患と喫煙の関連は疫学的なもので、あくまでも明確な答えは出ていません。
医学的にはタバコが有害物質であると言う観点において肺ガン、循環器疾患など全身の影響を考えるべきである。従ってあえて喫煙習慣のない潰瘍性大腸炎患者にタバコをすすめるべきでないと思われます。*5
保険適応になっておりますが実際に使用してみて状態が良くなったと言う話は、潰瘍性大腸炎の方やクローン病の方、私の方では、いずれからも聞いておりません。
引用文献
*1.庄司康嗣 兵庫医科大学 第2外科 下部消化管グループ 潰瘍性大腸炎に対する外科治療について 手術を受けられる患者さんと家族への説明 大阪IBD:学習講演会と難病医療相談会において 1998.3.29
*2.福島恒夫、鬼頭文夫、小尾芳朗、他 炎症性腸疾患 (1)外科治療 胃と腸 第32巻第3号 389-395 1997増刊号
*3.鶴田英夫、牧山和也 潰瘍性大腸炎と発癌 別冊医学のあゆみ 炎症性腸疾患の発症・進展をめぐる最近の話題 82-85 1996
*4.武藤徹一郎 他 消化器外科 10:1796-1803, 1987
*5.屋代庫人、本間直人、戸田潤子 他 炎症性腸疾患の診断と治療 診断と治療 Vol.85 N0.6 919-930 1997
*6.高添正和 前川厚子 炎症性腸疾患マニュアル 医学書院
*7.炎症性腸疾患 潰瘍性大腸炎とCrohn病の全て 武藤鉄一郎 八尾恒良 他 編集医学書院 1999年3月
*8.炎症性腸疾患の全て 潰瘍性大腸炎、クローン病の最新治療戦略 高添正和 編集 2002年10月
腹腔鏡下手術 長谷川博俊 渡邊昌彦 182-186 同上
難治性 小金井一隆 159-165 同上
*9
厚生労働省 難治性疾患克服研究事業 消化器系疾患調査研究班(難治性炎症性腸管障害)平成18年11月13日
*10難病情報センター 特発性大腿骨頭壊死症の記事を引用 骨・関節系疾患調査研究班(特発性大腿骨頭壊死症)
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