b.栄養療法
1.エレンタールについて利点を、福田先生に、欠点を根津先生に、サマリーを馬場先生にお願いしたいと思います。
福田
エレンタールの利点は、タンパク質で構成されている栄養剤ではなくて、アミノ酸で構成されているということが一つです。クローン病の患者さんについて、先ほどから、原因ということで、免疫の話も出てまいりましたように、腸の中にある種のタンパク質が入ってきますと、そのタンパク質が腸の粘膜を通り越して、中に入って、それに対して、アレルギー反応みたいなものがたくさん起こってきます。それが病気を悪くする一つの原因になっていると考えられています。ですから、なるべくそういうタンパク質の量は少ない方が良いだろうと言うことでアミノ酸を選んでいるわけです。
それから、クローン病の患者さんですと、小腸に潰瘍や傷がいっぱいありますので、消化吸収という働きが落ちてきています。ですから、油がたくさん入っていると、腸が疲れてしんどい状態なのに、それをまた、もっとがんばれといって、むちを打つようなことになって、状態を悪くする原因になるだろうということが考えられています。
もう一つの理由は、なぜそういう栄養剤をたくさんやるかといいますと、脂肪の量が少なくて、かつタンパク質の少ないアミノ酸ばかりの栄養剤を使いながら、栄養維持が可能であるということ。それから、栄養維持するために、もう少し食べなければいけないものとして、普通の食事を補うわけですが、その補う食事の中に入っている、「腸をどうも刺激しそうだな」という物質を取る量を減らすことができるのがこの栄養剤の利点だろうと思います。
根津
エレンタールは欠点だらけだと思いますが、治療目的やということであれば、これは我慢して飲まざるを得ないわけです。例えば、患者さんがエレンタールを摂取するに当たっては、分岐アミノ酸は非常に苦かったり、まずかったりする味覚の問題があります。しかし、最近はフレーバーを使って酸味系統で味覚的にごまかしたり、ゼリーのようなものを作って飲むようにしたりして、経口摂取が少しずつできるようになってきたと思います。
もう一つは、今、福田先生からお話がありましたように、アミノ酸に分解されるということで、浸透圧が非常に高くなります。ポタポタと点滴のように腸に落とせば、ほとんど問題ないのですが、一気に飲んでしまうと、便意をもよおし、浸透圧下痢などを起こすことがあります。これは薬の欠点というよりは、特性というべきなのかもしれませんが・・・。
それから、脂肪が少ないので、エレンタールだけを単独で飲んでいると、脂肪酸欠乏症で皮膚がかさかさしたり、あるいは、人工的にすべて作られていますので、自然食品と違って、未知の微量元素といったものが欠乏したりする可能性があると考えられます。
それから、あとは、食事としての残渣がない分、腸を刺激しないのはいいことなのですが、逆に粘膜の萎縮といいますか、かえって粘膜をやせさせてしまうということで、何か別な病体を形成しているという可能性を指摘する先生もいらっしゃいます。
欠点というほどではないですが、しかし、そういうふうな特性から考えると、腸の健康な人が取るとあまり意味のないことになります。これは治療目的で、福田先生がおっしゃった、そういう利点を考えた上での特性といいますか、欠点というふうになるかと思います。
馬場
確かにクローン病では、成分栄養剤のエレンタールというのは、栄養療法としての位置づけがあるわけですね。だから、この成分栄養剤をやれば、病変部が治ってくるという大きな特徴があります。
しかしながら、欠点と言われている点は、長期にわたってくると、微量元素の問題や必須脂肪酸の問題、あるいは、アミノ酸バランスの問題などが出てくるということがあります。我々はこの成分栄養剤に限らず、栄養を管理する場合、つまり、栄養を補給する場合に何を注意しなければならないかというと、栄養評価を元にしないといけません。現在行っている栄養の食事形態が、この人にあっているかどうか、つまり、それを栄養評価というのですが、その栄養評価をする必要があります。
したがって、長期間、成分栄養剤だけによる場合は、特にこういう正しい栄養評価を行います。つまり、あなたが元気であるかどうかということではなくて、一般に栄養評価というのは、アルブミンやコレステロールなどといったものが、指標に使われていたわけですが、微量元素や脂肪酸構成など、こういったものが非常に問題になってきていますので、正しい栄養評価を1年に1ないし2回行うことによって、栄養がアンバランスになっていないかどうかチェックをします。
しかし、クローン病では、福田先生のデータによりますと、エレンタールで1日、1200Kcal以上やっていると、再発はしないそうですから、残りの600Kcalないし800Kcalについては、食事形態で補っておれば、脂肪酸欠乏や微量元素といったものはあまり問題にならないと思います。したがって、病状が安定した場合には、やはり、食事の量を少しずつ増やしていくという心がけが大事だと思います。
質問: 福田先生にお伺いしたいのですが、エレンタールが体にすごくいいということは、よく分かっています。それで、1日6パック、全部の栄養をエレンタールで何年もずっと過ごされていても、どんどん再発していっている友人がいます。その方は手術をしても同じ結果がでているのですが、どうしていったらよろしいのでしょうか。エレンタールが体に合わないということもあり得るのでしょうか。
福田
もちろん、絶対的なことではありません。ただ、多くの人がそれでコントロールできるというのは、エレンタールの量をたくさん取りますと、食事の量が少なくなるということと、食べる内容についても非常に神経質になるということが、ポイントだろうと思います。ですから、エレンタールを6パックやっているから、時々、ビールを飲んでハンバーグを食べるとか、そういうようなことがあれば、結局はよくないということになります。エレンタールをたくさん取る理由の一つは、食事をあまり取らないですむということもあるので、数ではなくてエレンタールをしっかりやって、食事療法に注意していくというのが、一つ大事だろうと思います。
クローン病の患者さんは、悪くなった時、入院してIVHをするか、エレンタールで治療すると、8割から8割5分ぐらいの人は落ち着くのですが、それをしても落ち着かない人もあります。それは、腸管の中に小さな瘻孔がある人や、肛門部の周囲膿瘍がある人など、そういう特殊な合併症がある場合には、栄養療法だけではコントロールできないということがあります。ですから、そういう場合には、それにあった治療法を加えなければまずいだろうと思います。
それから、クローン病で、手術をしてもまた悪くなってくるというのは、手術したことが安心になって、もう大丈夫かと思って、少し無理をするというのが一つあります。それから、中には、パーセンテージは非常に少ないのですが、かなり真面目に一生懸命やっているのに悪くなるという人があります。これはやはり、体の中の炎症、外から入ってくるものに対する反応性が非常に大きい人だろうと思うので、そういう患者さんの場合は、免疫の方を少しコントロールする。例えば、ブレドニンを少し使うというようなことも必要になると思います。外国で使われだしたTNFα抗体や、そういうようなものが、栄養療法をやってもなかなか良くならない患者さんには、新しい薬として、適応になるのではないかと思います。
出口
エレンタールの長期投与につきまして、研究班の治療指針の中に微量元素対策が、見当たらなかったような気がします。患者さんの方から胸がつかえるとかいうことで、具体的な症状があって初めて、セレンが欠乏しているなど、これは微量元素の不足によることだということで、後追いで治療になっているかと思います。まず、その治療指針というのが知りたいのと、お医者さんに取っては、教科書的な内容なのですが、クローン病で非常に好発部位である回盲末端部を切除しているにもかかわらず、ビタミンB12を定期的に補充するという指示がないケースが非常に多いように感じております。その辺の教科書的なレベルのお医者さんのガイドラインや、その辺はどのようになっておりますでしょうか。
福田
厚生省から栄養療法の指針ということで、出されておりますが、それには、必須脂肪酸欠乏症や、微量元素の欠乏に注意しながら栄養療法を行うというふうに書いてあります。ですから、具体的にどれをどうしろとは書いておりませんが、そこから先は、それぞれの先生の裁量権で、任されておるということであります。
ただ、現実問題として、私どもの方では、微量元素の亜鉛は、炎症がひどくない時期の維持療法期には、成分栄養剤の中に含まれている亜鉛の量で十分で、亜鉛はそう欠乏してこないというデータを持っています。
それから、セレンに関しましては、残念ながらエレンタールにはほとんど含まれていないというデータがございますので、セレンは、普通の食べ物を取らないといけません。ですから、エレンタールだけずっと8パックやって、食事もしないで毎日を暮らしているという場合には、セレン欠乏が起こってくるというふうに考えられます。それで、そういう患者さんについては、食べればまた悪くなるからということであれば、セレンが若干含まれている、エンテルードという栄養剤があります。それには少しセレンが含まれているというデータが出ておりますので、5パックエレンタールやって、1パックエンテルードを取るというようなことで、セレンの血中の正常化が得られるかどうか、今やっているところであります。
外国では、ビタミンショップ、ミネラルショップなどという普通のドラッグストアで、セレン錠剤というのを売っているのです。亜鉛錠剤などもみんなアメリカでは売っています。ただ、基本的にセレンをたくさん入れるというのは、セレンは毒ではないかというふうにも思いますので、特殊セレン欠乏症がどうしても怪しいという場合には、特殊な治療として、点滴で入れたりもしています。一般的に、あまり精製されていない自然に近い食べ物の中には、セレンも入っているというふうに思いますし、亜鉛やセレンというのは、きな粉や大豆の皮に入っているということもあります。ですから、その辺のところは食事の指導で、少しセレンを補うような食事ということをしています。
それから、回腸末端部を切っている患者さんで、ビタミンB12を投与していないということですが、総合ビタミン剤というのを使うとたいていビタミンB12は入っています。それから、先生方は、血液の方で定期的に見ていまして、それで、貧血というか血液の赤血球の大きさや、小ささ、濃度など、そういうものもいっしょに結果を見ています。それで、やたらと大きい赤血球ができてくるというようなときは、ビタミンB12の血中濃度を測らなくても、欠乏があるかもしれないなということで投与していますので、全く無視しているわけではないということです。
それから、回腸末端を切った患者さんでも、頻繁に下痢が何度も起こらなければ、回腸末端の切った残りの部分が、また回腸末端になってきまして、ビタミンB12の吸収などがよくなってきます。つまり、ビタミンB12負荷試験、シリングテストというのですが、そういうのをやってみますと、クローン病の患者さんで回腸末端を切っていても、時間が経って緩解状態が続いている患者さんでは、ビタミンB12の吸収は普通のような状態でできているということで、あまり気にしなくてもいいのではないかと思います。
2.潰瘍性大腸炎が風邪をひくことによって再燃するのは何故ですか?
根津
最初の病因論的なところでも少しお話がでたかと思いますけども、他の感染症、風邪に限らずだと思いますが、IVHをしているときに、突然カテーテルで熱がでることがあります。その時に、それまで治っていたIBD(潰瘍性大腸炎、クローン)が突然増悪するというようなことをしばしば経験します。そのメカニズムについてはよく分からないです。
例えば、腸のクローン病であれば、腸の中というのはもちろん汚くて、血中の中がきれいであったといたしますと、そういうふうな素因の患者さんは、腸の透過性といいますか、細菌が通りやすくなっている状態の上にさらに、そういう発熱をして、通りやすくなる状態が増悪するのではないか。あるいは、もうすでに血中に、風邪によって熱の原因になるものが回っていて増悪させるのではないかなど、そういうふうな話がでています。メカニズムは詳しいことは分かりませんが、いずれにしても治療経過の中で、他の感染症があれば、IBDが増悪するというのは経験的にも間違いないことだろうと思います。
馬場
根津先生のお話に少し付け加えますと、風邪は、通常の感冒から始まって、風邪というほど難しい病気はないのですが、例えば、ウイルス性で、風邪による胃腸炎の症状が起こってくる場合は、潰瘍性大腸炎の下痢の回数が増えてきて、そして、それに伴って、血便が出るというようなことになると思うのですね。したがって、風邪といわれても、ウイルス性のものかどうかによって、あるいは、それが胃腸症状を引き起こすような風邪であれば、これは一見悪くなるというようなことだと思いますが、風邪の症状と共に割合と終息してくるというのが通常ではないかと思います。
Mimibukuro Contents Since 1999-09-11 degudegu