外科治療

1.どのような時にクローン病・潰瘍性大腸炎では手術が必要になるのでしょうか?判断基準を教えて下さい。(両方)UCは以下のリクエストがありましたのでそれをふまえた上でお答え下さい。
潰瘍性大腸炎の待機的手術、準緊急手術、緊急手術についてそれぞれ、詳しく教えて下さい。潰瘍性大腸炎では悪化したときに行うべきかそれとも緩解期で安定している時の方が良いのでしょうか?

根津
 
まず、クローン病の話をさせていただきますが、基本的には、栄養療法やステロイドなど、両方の疾患共に内科的治療が原則です。クローンの場合は、長い経過の中で、スローリープログレッシブといいまして、徐々に細くなったり、それから、腸と腸の間にトンネルができたり、肛門に病変ができたり、そういう、腸管合併症が経過の中で見られます。
 それで、手術適応とは、基本的には本質的に治すわけではないのですが、ある一部が栄養療法あるいは、内科的治療をじゃまするような狭窄や瘻孔など、そういったものができてしまった患者さんは、比較的、内科的治療が効かなくなるということで、効く状態に戻してあげるというこです。
 では、どうして決めるのかというと、どの教科書を見ましても、手術適応の中に、狭窄あるいは閉塞、それから、2番目が瘻孔、3番目が難治出血という順番にでていますが、明確にどういうふうなときにというようなことが書いていません。それで、我が国の施設であれば、例えば、内科治療の治療指針というのがあって、栄養療法をやってもCRPが緩解しない。造影すると細いところがあって、その上の口側の腸がものすごく拡張していて腸閉塞状態になっているとういうような場合が、一般的に言う手術適応となるかと思います。
 狭窄についてお話しますと、例えば、患者さんが絶対手術がイヤだということになると、これは良性疾患ですので、我々が手術適応ありと判断しても、患者さんは、手術を拒否する場合もあります。「それやったら家で点滴するしかないよ」と言って、在宅IVHを受けると言ったら、その段階で手術適応はなくなってしまうわけなので、ある程度、幅があります。一般的なことを言えば、ある程度、エレンタールができるようになってから、家に帰るのがいいでしょう。そして、経腸栄養から食事を併用出来るぐらいまで見込みが立つような狭窄症状の患者さんであれば、しばらく絶食にして粘って、内科的治療が効くのを待つということになるかと思います。
 それから、瘻孔に関してもお薬で治せるという考えもあるみたいですが、私たちは栄養療法その他、今までの一般的な治療では、瘻孔に関しましては、それで、コントロール出来た症例を経験していません。ですから、ほとんどはそれを見つけた段階で手術をすることが多いです。
 あと難治というのは、これは元々難治であるから手術をするわけなのです。現在我が国で使える薬物療法、内科治療でぜんぜん反応しない場合に、特に大腸型などはそうだと思いますが、狭窄もないし、瘻孔もないけども、栄養療法の効きが悪いような場合にその部分だけを区域的に切除いたしますと、治療効果があがる場合があります。
 あと潰瘍性大腸炎に関しましては、手術適応というのは、これはステロイドとの駆け引きというのが一番多いと言えます。これもいわゆる難治というふうにいわれるのだと思います。ステロイド自身は非常によく効くお薬だというのは、疑いのないことなのですが、長期的な使用でかなりの副作用が挙げられます。
 例えば、成長障害・骨の変化、・白内障・緑内障いろんな合併症があります。ムーンフェイスと言いまして、顔が丸くなるだけだったらいいのですが、内分泌的にも全身の影響にも非常に悪いわけですから、それが、ペンタサや、そういった副作用の少ない薬に切り替えられれば手術は必要無いですし、入院を何回も繰り返す場合や、社会生活がじゃまされるぐらい入退院が必要な場合には手術適応とします。
 
その他には、緊急といいますか、絶対的な手術としましては、珍しいですが、穿孔といって腸が破れる場合、あるいは、激症型と言いまして40度ぐらいの熱が出たり、大量の出血をして輸血を繰り返したり、あるいは、腹痛が激しかったりするような症例のような場合にも準緊急的に手術をする必要があります。
 潰瘍性大腸炎は発ガンの問題です。10年経ってガンの存在が疑わしいような病変が現れれば、間違いなく手術となります。


2.人工肛門に関して潰瘍性大腸炎の手術で一時的なもので一方クローンは肛門部病変、特に痔瘻が悪化したりした場合や膣瘻などに人工肛門を作ると説明を受けています。CD、UCそれぞれ永久人工肛門になる確率を教えて下さい。一時的であるとすると人工肛門の期間(次の手術までの期間の目安・基準を教えて下さい。
 ●大腸全摘した場合の便の回数、便の状態(漏便)、日常生活について

根津
 
潰瘍性大腸炎の話を先にさせていただきますが、潰瘍性大腸炎の人工肛門は、小腸の最後の所を繋ぐことになります。回腸瘻といいます。回腸人工肛門、これは1970年代までは、それがむしろ一般的な手術であり、その方法しかなかったのですが、それを肛門につなぐ手術というのが、安全性が非常に高くなってきました。要するに、小腸を肛門にくっつける手術というわけで、便の回数など、そういう合併症を予想されますが、数々の問題点が克服されまして、現在では、潰瘍性大腸炎を人工肛門にするのは、もう一時的な場合がほとんどだと思います。
 その目安は、大腸全摘出した段階で一応、人工肛門を作って、そして、2回目に繋ぐ場合は、ステロイドが完全に切れた段階で、3ヶ月ぐらいを空けるということですので、だいたい1回目と2回目の手術の間に半年ぐらい時間がかかることになります。それから、1回目の時にもうすでにつないでしまって、安全のために人工肛門を置く場合は、2−3週間あれば、傷さえ治るのが確認出来れば十分ということです。手術の術式によって2回目と1回目の間の間隔が異なってまいります。
 それから、もう一つ、潰瘍性大腸炎の場合は、クローン病と違いまして、人工肛門を作って大腸全摘出をすれば完治ということになるかなと思われるわけです。いわゆる袋のことをパウチというのですが、長期経過の患者さんが蓄積してきますと、その中には、小腸の最後に作ったパウチに炎症が強く出てきて、そのためにそれを何回も繰り返す場合があります。女性の場合ですと、パウチの炎症が強くて膣に穴があいたりして最終的にせっかく造ったパウチを捨てなければならな
い。大腸全摘出して、回腸肛門吻合できたのに、最終的に、また人工肛門に戻さなければいけない患者さんというのが数例報告されています。全体からすると数%もないかと思います。
 潰瘍性大腸炎で大腸全摘出したときの便の回数が、一応、世界の平均で5.7回というふうに書かれています。しかし、これも男女差、それから人によって、年齢によって、またお尻の括約筋の力によって、全く違います。ですから、高齢者ですと、括約筋の機能が落ちていたりすると、元々手術適応が少ない場合も多いですが、一般的には、5−6回というのが多いです。しかし、外
で働く機会の多い若い人たちになりますと、例えば車の運転をしなければならない仕事などでは、お尻がトレーニングされるということになるのでしょうか、3回ぐらいまで減る人も多いです。日常生活については、漏便さえなければトラブルはそれほどないかなと思います。そのぐらいの便の回数であれば問題はないかなと思います。ただ、便が堅く固まるということはないようで、形はあるが柔らかいというのが一番良い状態というふうに聞いています。
 あとは、クローン病の人工肛門に関しては、これは一番多いのは、肛門病変が非常に進行して、狭窄がある場合や、すでに肛門の手術を受けていて、漏便がもうコントロールできない状態などの場合があります。女性の場合は、膣に瘻孔が出来て、要するにクローンの病気の合併症でできあがったものが、二次的な感染状態、つまり、骨盤内感染症などを起こしている場合には、一時的な人工肛門にします。そして、手術などで、すでに括約筋機能が廃絶しているような場合には、永久の人工肛門を造るということになります。
 まとめますと、潰瘍性大腸炎は今日では、一応、治療としては一時的なものがほとんどで、一部にそういうパウチがうまくいかない場合があるだろうと思います。それから、クローンに関しましては、ケース・バイ・ケースですが、肛門狭窄が強かったり、すでに手術の影響があったりする場合には永久人工肛門になります。そのパーセントを教えてくださいということでしたが、文献的にも施設的にもかなり差があって、欧米では多い所は20-30%と書いていましたし、大腸病変の広範な人の場合にはだいたい30%という施設もあります。私たちはまだそういう経験はありません。

3.シ−トンとは、どのようなものですか?(CD)
 ●シ−トンをするタイミングは? ●痔瘻の手術でシ−トン法以外にいい方法はあるのでしょうか?●シ−トンをした人の再発率は?
 

根津
 
シートンというのは、実はこれが良いというよりもこれしかありません。これ以上の手術をすると、先ほど申しましたように、特に便の括約筋機能に永久的な障害を残すということで、ドレナージ(患部の水やうみを抜く治療方法)という意味だけなのですね。 お尻の出口に近い所だけの瘻孔であれば、普通の痔瘻の手術と同じでいいというふうにいわれています。クローンの場合は得てして、直腸座骨下瘻と言いまして、もっと離れた上に方へ直腸に沿っていきます。瘻孔も一つではなくて、3個4個の複雑化痔瘻場合には、瘻孔を一つ一つ外科的に処置することはあまり考えない方がいい。
 ただ、膿がどんどんたまって、例えば、男性ですと陰のうの方であるとか、女性の方ですと膣とか、そういう所に膿のスペースが広がっていくのを、このシートンで積極的に抑えることができます。あとは、局所的な治療よりもむしろ、クローンの活動性を防いであげるというのを併用することが一番大事だろうと思います。そこだけを治したら治る病気ではないと思います。
 タイミングに関しましては、膿が広がりつつある、もしくは、痔瘻がどんどん進展するような場合にはそれをくい止めるという意味でシートンを行うという意味でありまして、痔瘻を見つけたからいきなりやるということは全く必要ありません。2−3個の穴で膿が出ていましても、内科的治療が大前提で治療に反応しない場合に初めて、手術を加えるというのが基本だろうと思います。

出口
 そのシートン法について、追加で質問したいのですが、患者さんに聞きますと、「ペンローズドレン」という太いシリコンの管を留置している場合と、施設によりましては、輪ゴムを使用いていているケースがあります。輪ゴムで済ませていただけるなら、非常に楽そうな気がするのですがいかがでしょうか。

根津
 
クローンが原因ではない痔瘻でも、輪ゴムをかける「輪ゴム法」というのは昔からよくやられていまして、それは「タイトシートン」といい、要するに強くしめるタイプが輪ゴム法です。クローンに対して行われるのは、「ルーズシートン」といってゆるくシートンをかけるのが原則なので、基本的に、クローンに対しては「ペンローズ」の方が良かろうといわれています。
 先ほど再発率を答えるのを忘れましたが、これは実はまだ、患者さんの論文というのは、まだあまり多くないみたいですね。みんな短期の成績だけでは、「良かった良かった」というようなことが、欧米の論文でも一般的なのです。ただ、日本で長期的にたくさんやられている施設の先生方にお話を聞きますと、だいたい半年から長ければ2年くらいでドレーンを抜くそうなのですが、抜いてから腸の方のコントロールが悪いと高率に再発する。これは当たり前のことなのですが、やはり、おなかと関係しているということですね。

4.クローン病の術後再発率はどうでしょうか? ●何年後くらい再発が多いのか? (CD)
根津
 クローンの再発というのは、これは先ほど申し上げましたように、合併症や狭窄を取り除くだけで、また、元の内科の治療に戻るわけですから、その内科治療で、栄養療法をきっちりやる先生の所にお返しすると、再発率は低いでしょう。内科的治療をいかにするかによって、再発率が全く違うと思います。欧米では、5年の間に30%位は再発すると思います。ただ、再発の定義も難しくて、おそらく再手術になるのがそのくらいだろうといわれています。
 我々の施設では術後の栄養療法をかなり、しっかりとやります。特に1年以内に再発することが多いので、1年以内はけっこうシビアに栄養をコントロールするわけですが、そうしますと、だいたい1年以内に再手術する率というのはほとんどありません。だけど、3−5年の間にどうしても食生活がゆるんで、内科的治療がゆるんできて、再発する人はいます。 しかし、再発したからといって、すぐ再手術するわけではなくて、結論的な言い方をすれば、私の経験では、だいたい5−6年の間に10−15%の人が再手術ということです。
 あとは、先ほど患者さんの話が出ていましたが、若い人で、「切っても、切っても…」という話があります。だいたい、2年位の間に周期的に手術をする人を2−3人経験しました。早くなる人というのは、もちろんその人のキャラクターや食生活にもよるのでしょう。他の先生達、外科系の学会の話でも、2−3年に1回切らないといけない人がいるという話はありますが、全体のパ−セントからいえばそのぐらいで、それほど多いわけではありません。

福田
 
追加させていただきますと、手術をしてもしなくても、内科の治療にかかわっているということで私の所のデータでも一緒です。それから、手術をしたときに回腸末端部に限局した、そこにだけしか病変のないクローン病の患者さんは、手術をした後、「普通に生活をしているのに私は本当にクローン病だったのですか。」というようなことが割とあります。ですから、1カ所だけにかたまっているクローン病の患者さんは、思い切って手術をしてしまった方がいいのかもしれないというふうな考えが一つあります。
 それから、クローン病の患者さんは、私の印象では、手術した患者さんの方が手術しない人よりも内科治療をしっかりやらないと、つなぎ目の所がまた狭窄してくるということかあります。ですから、最初の手術は、うちの施設ではどうしてもということがなければ、なるべく先に延ばすというやり方をしています。
 それから、厚生省の方で色々問題になってきている手術の適応のことなのですが、潰瘍性大腸炎はどうも内科で長く治療しすぎるという意見も出ています。手術療法がだいぶ進歩してきたので、厚生省の研究班の班会議で早く内科はあきらめて、外科の先生に潰瘍性大腸炎は任せた方が良いという意見も出てきているというのが現状であります。
 私の患者さんで社会的適応ということで手術をしたケースがあります。2人とも女性の方ですが、「結婚を間近にしている」、「結婚されていて子供が欲しい」ということで、薬をずっと飲み続けているのはイヤだからということもありまして、思い切って比較的状態の良い時に、いわゆる人工肛門にはしていませんが、大腸全摘出して回腸を肛門につなぐという手術をしました。現在、子供さんをそれぞれの方が育てておられます。今から思いますと、社会的適応をよく話し合ってよかったなと思っています。

5.新しい外科手術を教えてください(特に腹腔鏡下手術)について(両方)
根津
 
腹腔鏡下手術というのは、1980年代ぐらいに胆のうを取るということで、欧米の先生達が積極的に初めて、今では胆石を取るといえば腹腔鏡といわれている時代なのです。潰瘍性大腸炎やクローンに関しましては、元々、何回もおなかを開けることが多かったり、あるいは、ステロイドが入っているために腸の壁がもろかったり、血管がもろかったりするために、長い間、IBDに応用することが疎んじられてきた疾患、と私は認識していました。しかし、保険が通ったということもありまして、我々も3年前から始めています。
 一番のメリットは、まずクローン病に関しましては、もちろん若い人が多いので美容的な意味が大きいと思いますし、それから手術後の患者さんの、特に疼痛などが非常に小さいわけです。ただ、どんな手術にでも応用できるかといいますと、そうではなくて、やはり待機手術ですね。要するに、狭窄があって、それが内科的にコントロールできた状態で、手術をするというのが一番いい適応だと思います。ですから、緊急手術では「危ない」ということがありますから、まず考えにくいということです。だから、瘻孔が複雑にできていて、おなかの中に膿瘍があるような人は手術適応となりません。クローン病でだいたい60例の手術をこの3年間でやりましたが、その内この治療をしたのは30例、約半分が適応になると考えています。
 
それから、潰瘍性大腸炎に関しても、これも同じで、要するに破れかけの腸に関しては、緊急手術でありますと、できるだけ腹腔鏡下手術はしないで、ステロイドがきれない難治で、ある程度時間的余裕があって、待機手術という言葉を使いますが、一般的な手術の場合に行います。ですから、潰瘍性大腸炎の場合は、クローンと違ってたくさん何回もおなかを手術している可能性というのは非常に低いですから、大体9割くらいはこの手術でいけるかと思います。

 もちろんメリットは、従来はへそ上から恥骨の上といいますか、一番下腹部の最下端まで20センチ近く切っていたのです。それが、7−8pの傷でできる美容的なメリットというのが一番大きいと思いますし、やはり、そういう手術の侵襲も少なく術後かなり楽です。 問題は潰瘍性大腸炎の場合は、手術時間が長いということで欧米でも、どこの施設でもやっているわけではありません。医者の方がむしろ大変というところがあります。長い時間ですと6時間ぐらいかかります。
 それから、話が戻りますがクローンに関して、何回も手術をしている人が多いという話をしましたが、そういう人は癒着だらけで、やはり、そういう小さな傷での手術というのはちょっと難しいということが多いです。


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